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患者さんの数だけある「正解」を悩みながら探していく

加藤 剛 (認知症看護認定看護師)

市民病院で活躍するさまざまな職種のスタッフにフォーカスし、その人柄や医療にかける思いに迫る本企画。今回登場するのは、認知症看護認定看護師の加藤剛さんです。

「絶対に看護師に向いている」の言葉に半信半疑

私は曾祖母まで同居する四世代世帯で育ちました。一つ屋根の下に10人以上が暮らす大所帯で、それはもう賑やかでした。曾祖母は「ふら婆ちゃん」と呼ばれていて、それはなぜかというと、ふとした時にふらふらと家を出て行ってしまい、警察などのお世話になって帰ってくるからです。診断を下されたわけではないと記憶していますが、おそらく認知症だったのでしょう。「高齢になったら皆、ふら婆ちゃんみたいになるのか」と、幼い頃の私は思っていました。とても大好きな曾祖母でしたが、振り返ってみれば私が認知症高齢者と関わる原点だったのですね。

子どもの頃の私は、自分から「何かをやりたい」と言い出すことがほとんどない、積極性に欠ける性格だったと思います。それは高校卒業の段になっても変わらず、医療の道を志すどころか特にやりたいこともなく、学校に届いている求人の中からパン屋さんを選んで就職しました。

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ところが、人生とは面白いもので、そこで看護学生の方がアルバイトをしていて、仕事で交流しているうちに、「加藤さんは絶対に看護師に向いている」と言うんですね。理由を尋ねると、人の話を聞く姿勢が看護師そのものだと。最初はピンときていなかったのですが、「確かにお客さんの話を傾聴するのは得意かもしれない」とだんだんその気になって、退職して看護専門学校に入りました。彼女が評価してくれた傾聴力のベースには、「ふら婆ちゃん」をはじめ、大家族の中でのコミュニケーションがあったのだと思います。

看護専門学校を卒業後、すぐに市民病院に入職し、HCU(救命救急病棟)に配属されました。その後、ER(救急外来)を兼務するようになるのですが、どの職場でも未熟な私の面倒を先輩方がよく見てくださいました。ただ、心を込めて急性期の患者さんの対応をする一方で、それこそ「ふら婆ちゃん」のように、認知症や慢性的な疾患、障害などを抱えながら地域で暮らしている方々のことがどうにも気になる自分もいました。そこで、患者さんのスムーズな退院支援に取り組む活動などにも率先して参加するようになりました。そうすることで、自分の中である種のバランスを取っていたのだと思います。

認知症看護にはプロトコールがない

傾聴力については、看護師になってからも自分なりに磨いてきたつもりですが、苦い経験もあります。入職2年目に受け持った急性期の患者さんの治療予後が思わしくなく、「もう安楽死をさせて」と訴えられたことがありました。私はそれが悲しくて「何でそんなことを言うんですか。頑張りましょうよ」と返してしまったのですが、今思えば患者さんの心の奥にある気持ちを何も傾聴できていなかった。欲しい言葉はそれではなかったはずです。その患者さんはまもなく亡くなられましたが、今も後悔だけが残っています。

救急領域を経て認知症看護認定看護師になって思うのは、救急医療にはプロトコール(必要な処置を迅速・確実に実行するための手順などを定めたもの)があり、決められた動きをすることで救命につながるのですが、認知症看護にそうしたものはありません。一つだけの正解はないからこそ、患者さん一人ひとりに寄り添いながら必死に悩み、考えていくしかありません。そこが難しさでもあり、やりがいでもあります。

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認定看護師としては、他のスタッフからの相談に乗り、一緒に考えていく役割もあります。認知機能の問題を抱える患者さんは特定の病棟に限定されることなくいらっしゃるので、各部署をラウンドする中で話を聞いたり、あるいは電話がかかってきたり、方々から相談が寄せられます。部署の垣根を越えて貢献できることは私にとって大きなやりがいです。私がお世話になってきた頼れる先輩方のように、今の私がなれていたらいいのですが……。

私が考える市民病院の一番の強みは、医療スタッフが緊密に連携しながら患者さんの治療やケアに当たるチーム力です。認知症・せん妄サポートチーム、緩和ケアチーム、褥瘡ケアチーム、呼吸療法サポートチーム、栄養サポートチームなど様々なチームが、個々の力を結集して全力で患者さんのために働いています。きっと患者さんにも心強いと感じていただけるのではないでしょうか。

特にやりたいことがなかった子ども時代を経て、市民病院でやりがいを持って働くことができている今、「やりがい」や「生きがい」というものは人生においてなんと大切なのだろうかとつくづく感じています。ですから、これを読んでくださっている皆さんも、それぞれの「やりがい」や「生きがい」を貫くために健康であってほしいですし、健康を維持・回復するために、病院を頼っていただきたいです。

これからも患者さんの「ありのまま」を受け止められるように、時には見守り、時には一緒に悩みながら、寄り添う看護を続けていきたいと思います。

プロフィール

加藤 剛(かとう・つよし)認知症看護認定看護師

看護専門学校を卒業後、横浜市立市民病院に入職。HCU、ERを経て、外科系・内科系病棟で看護業務を行いつつ、認知症・せん妄サポートチームとしても活動している。趣味は映画観賞や読書、料理などのインドア系から、マラソンや登山などのアウトドア系まで多彩。ペットの猫と過ごす時間が日々の癒し。

4歳頃 自宅前で兄弟や従姉妹といつも遊んでいました。

長野の硫黄岳にて 日本最高所の野天風呂(湯元本沢温泉)に入りました。

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