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患者さんにも看護師にも「精神看護のプロ」として寄り添う

福嶋 好重 (リエゾン精神看護専門看護師/担当課長)

市民病院で活躍するさまざまな職種のスタッフにフォーカスし、その人柄や医療にかける思いに迫る本企画。今回登場するのは、リエゾン精神看護専門看護師※1の福嶋好重さんです。

温かく寄り添ってくれた看護師に憧れて

静岡県に生まれ育ち、幼少期は4歳離れた兄と木登りや草野球などをして活発に過ごしていました。看護師を志すようになったのは、2つの出来事がきっかけです。1つ目は、小学生のときに遭遇した交通事故。たった1人で病院に運ばれ、痛みに泣きじゃくる私の手を、看護師さんが優しく握ってくれました。2つ目は、中学時代の急性膵炎。急に襲ってくる腹痛におびえているとき、看護師さんがそっと寄り添ってくれました。これらの経験が頭から離れず、自分も看護師になりたいと憧れるようになったのです。

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ところが、私の父は大反対。当時、看護師の仕事は3K(きつい、汚い、危険)などと呼ばれることもあり、心配だったのでしょう。「教師になってほしい」という両親の思いを聞いたときに中学時代の記憶がよみがえり、養護教諭の道を検討しました。実は、急性膵炎になった後、体調が優れず保健室に通っていて、養護教諭の先生にとてもお世話になったのです。ただ、養護教諭になるにしても看護の勉強は大切だと親に伝え、結局は理解を得てこの道に進むことになりました。

精神看護の知識を土台に、相手を丸ごと受け止める

精神看護に興味を持ったのは、看護師として働き始めてからです。今と異なり、かつては本人へ告知をしないケースが大半で、多くの方は自分の病気を知らないまま治療に臨み、なかなか回復しないことに不安や焦りを募らせていました。残されている時間が短いことを突然知り、納得できずに怒りをあらわにする方や、呆然と表情が固まったまま最期を迎える方もいました。

つらい思いをしている患者さんに、十分なケアができていないのではないか――。そんなもどかしさを抱えていたとき、リエゾン精神看護をテーマにした院内の勉強会に参加したのです。そもそも「リエゾン」とは、「つなぐ」「連携する」「橋渡しをする」という意味のフランス語。身体的な治療を受ける中で精神的な問題が生じた患者さんやそのご家族に、精神保健看護の知識をもって心のケアを提供することを、リエゾン精神看護と言います。「これだ!」と直感した私は、大学院に進学し専門的な勉強に励みました。現在はリエゾン精神看護専門看護師として、主に患者さんの心のケアを担っています。日常生活から切り離され入院生活や治療を余儀なくされた患者さんの多くは、強いショックや不安を感じるもの。中には、パニック症状や抑うつ症状が出る場合も少なくありません。 過去に私が対応した患者さんの中にも、悪性腫瘍の治療で入院中「お前なんかに何が分かるんだ!」と声を荒らげたり、薬や食事で少しでも気に障ることがあると担当者を叱責したりする方がいました。しかし、患者さんの心に寄り添って話すうちに、お母さまとの死別に後悔や強い自責の念を抱えていることが明らかに。その心の痛みが少しでも和らぐよう面接を重ねていったところ、次第に表情が柔和になっていき、最期は安らかな表情で、ご家族と共に穏やかな時間を過ごすことができました。リエゾン精神看護を学んでよかったと、心から思えた経験の一つです。

また、主治医をはじめとして、薬剤師や理学療法士、管理栄養士といった多職種の力を結集し、病院全体で患者さんを丸ごと受け止めたからこそ対応できたケースでもあります。市民病院には各分野のリソースナース※2がそろい始めていますし、どの職員も協調性やチャレンジ精神が高いので、チームワークよく治療やケアを提供できていると感じています。

一人ひとりの、かけがえのない人生に向き合って

もう一つ、リエゾン精神看護専門看護師としての重要な役割は、看護師の心のサポートです。医療現場で働いていると、心を揺さぶられるような体験をすることがあり、いくら医療従事者であっても受け止めきれないことがあります。悩みを抱える看護師と一緒に状況を整理したり、うまくセルフケアできるようにサポートしたりして、自分のことを「二の次」にしてしまいがちな看護師自身の心も守っていきます。

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私がこの仕事で大切にしていることは、一人ひとりの対象者に関心を寄せて、丁寧に話を聴くことです。人間、10人いれば10通りの人生があるもので、それぞれがかけがえのない存在です。自分の先入観や解釈を挟まず、その人ならではの思いや価値観をしっかりと受け止めながら、精神的な側面から「生活を整える」ための支援をしたいと考えています。

病気や障害を抱えて療養中の患者さんやご家族は、さまざまなストレスを抱えていることでしょう。不安が高まったり気持ちが沈んだりするのは、とても自然な反応。1人で頑張り過ぎる必要はありません。不安や心配なことがあれば、ぜひ身近にいる職員に声をかけてください。チーム一丸となって必要なサポートを提供させていただきます。

※1 リエゾン精神看護専門看護師:日本看護協会の認定を受け、身体疾患で治療を受けている患者さんに精神的ケアが必要になった場合、精神保健看護の見地から専門的なケアを提供する、いわば「心と身体をつなぐ」看護師のこと。
※2 リソースナース:特定の看護分野において必要な教育課程や研修を終えた、専門性の高い看護師のこと。市民病院には、5名の専門看護師(がん看護、精神看護、家族支援)や認定看護師、周麻酔期看護師を合わせて、現在34名が在籍している(2024年7月現在)。

プロフィール

福嶋 好重(ふくしま・よしえ)リエゾン精神看護専門看護師/担当課長

静岡県出身。市民病院で唯一のリエゾン精神看護専門看護師として、精神科リエゾンチーム、認知症・せん妄サポートチーム、病院職員こころのサポートチームなどで活動。趣味は、旅行やコンサートに行くこと。特に最近では、子どもと一緒に全国各地の水族館や動物園に行くことが癒しの時間になっている。

2歳ごろ。家族旅行先の公園で。

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