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悩み多きがん患者さんにそっと寄り添う「伴奏者」でありたい

卯野木 理紗子 (がん看護専門看護師)

市民病院で活躍するさまざまな職種のスタッフにフォーカスし、その人柄や医療にかける思いに迫る本企画。今回登場するのは、がん看護専門看護師の卯野木理紗子さんです。

プライベートも仕事も大切にしてきた看護師人生

出身地は愛知県ですが、幼少期の3 年間だけ、両親の仕事の都合でカナダに住んでいました。「YES」「NO」すら分からないまま現地の学校に通ったので、コミュニケーションにはかなり苦労しました。また、控えめな子が多い日本とは違い、カナダでは子どもでも自分の意見を堂々と主張していたことが印象的でした。言葉や文化の違いを大いに味わった子ども時代だったと思います。

看護の道を選んだのは、高校時代の進路を決めるタイミングで、文系よりも理系の科目の方が得意だったから。当時の自分を思い返すと、看護に心から関心を持っていたとはいえませんが、学びの中で奥深さや魅力を知っていきました。今では看護の仕事以外は考えられないほどで、あの時、この道を選んで本当によかったです。地元を離れて神奈川県の看護大学へ進学し、実習を通して、がん患者さんの多さや抱えている問題の複雑さを知って思いを寄せるように。卒業後は、愛知県がんセンターにU ターン入職しました。

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大きな決断をしたのは、看護師4 年目のとき。結婚と関東地方への転居です。仕事を続けたい気持ちもありましたが、家庭を持つ夢も実現したかったので、結婚を機に退職。二度の妊娠と出産を経験して、さらにがん領域を学ぶため大学院にも進学しました。その後、がん看護専門看護師として復職し、市民病院で8 年ほど勤務しています。プライベートと仕事、両方を大切にしながら歩んできた看護師人生といえるかもしれません。

がん看護専門看護師の考えに衝撃を受け、同じ道へ

大学院に進もうと思ったきっかけに、看護師2 年目のときに出会ったがん看護専門看護師の存在があります。当時、白血病の再発を繰り返し、さらなる治療法を見出せない患者さんがいました。しかし、その方は諦めることなく、セカンドオピニオン、サードオピニオン、フォースオピニオンまで取得し、必死に治療法を探していました。そろそろ受容に向かってもいい段階にあると考えていた私は、その方への接し方に悩んでいたのです。そのとき、がん看護専門看護師の先輩が「まだ幼いお子さんと奥さんを残すのは心残りだよね。その方の立場になって考えたら、諦めたくないのは当然だよ」とアドバイスしてくれたのです。まだ経験年数が浅かった私には、その言葉がとても衝撃的でした。専門看護師になれば、これまでとは違う看護の世界が見えてくるのかもしれない――。そう感じたことが、現在につながっています。

今は市民病院において、がん相談支援センターなどで1 日に平均8~10 件ほどの相談に対応しています。10 分で終わることもあれば、1~2 時間ほど話を伺うことも。予約制ではないので、誰もがふらっと利用できる場所です。相談内容は実にさまざま。病名を聞いて落ち込んでいる方もいれば、乳がんの手術で乳房を全切除するかどうか悩んでいる方もいます。中には、本人が治療を希望していないという家族からの相談もあります。内容に応じて対応の仕方は変わってきますが、まずは本人や家族の考え、思い、価値観などをじっくりと伺い、複雑に絡み合っている糸をほぐしています。

状況や気持ちが整理されて次の進め方が見えてきたら、さまざまな職種の医療職と連携することも多々あります。診療科が34 と多くそろっており、がん以外の疾患がある方にも対応しやすいことが当院の特徴。例えば、不安な気持ちを神経精神科でフォローしてもらったり、糖尿病や心臓疾患などの基礎疾患があっても手術可能かどうかを専門医に尋ねたりします。また、リハビリテーションスタッフや薬剤師などによる多職種連携がとてもスムーズなこともアピールポイントでしょう。どの医療スタッフも真摯に快く対応してくれるので、患者さんから不満の声を聞くことはめったにありません。

どんな思いも否定せず、ありのまま受け止めたい

相談者が自ら答えを出せるように支え、選んだ道に向かって踏み出せるように寄り添うことを、日頃から大切にしています。極端な話をすれば、自分の命よりも仕事を優先したい方だっています。そうした気持ちも即座に否定するのではなく、思いが形成されるプロセスを含めて、ありのまま受け止めたいのです。そのために意識しているのが、その方自身を見ること。「母親」「会社員」といった肩書や、疾患・病状といった本人を取り巻く背景だけで相談者を判断しないように気を付けています。私の理想は、相談者にそっと寄り添う「伴奏者」。患者さんが主旋律を弾くのが難しいなら、演奏を止めたっていいんです。その人らしいペースを大事にできる看護師でいたいと思っています。

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当院が「安心とつながりの拠点」という言葉を掲げているように、がん相談支援センターも、「自分は独りではない」と安心できる場所にしていきたいです。SOS を出すことすらできずに抱え込んでいる方もいらっしゃると思いますが、どうか遠慮なく頼ってもらえるとうれしいです。困ったことや不安なことがあったら、いつでも気軽にお立ち寄りください。

プロフィール

卯野木 理紗子(うのき・りさこ)がん看護専門看護師

愛知県出身。愛知県がんセンター勤務を経て、がん看護専門看護師になるために大学院へ。
その後、横浜市立市民病院に入職し、現在、仕事と育児の両立に奮闘中。『幽☆遊☆白書』『HUNTER×HUNTER』など、お気に入りのマンガを読むことがリフレッシュになっている。特技は、イラストを描くこと。

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