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撮影時、本当に「焦点」を合わせるべきは患者さん

戸田 博幸 (画像診断部技師長)

横浜市民病院で活躍するさまざまな職種のスタッフにフォーカスし、その人柄や医療にかける思いに迫る本企画。今回登場するのは、画像診断部の戸田博幸技師長です。

偶然の縁に導かれた診療放射線技師への道

技師に導いてくれた先輩と

私を診療放射線技師(以下、技師)に導いてくれたのは、高校時代のハンドボール部の先輩でした。もともと母親が看護補助者として働いていたこともあって医療業界は身近な存在でしたが、その先輩の話を聞くうちに、おもしろそうな仕事だと本格的に興味を持ったのです。物理や化学など理系科目が得意だったこと、機械いじりが好きだったこともあり、先輩の後を追って進学し、社会人になっても同じ職場で働くなど30年以上の付き合いが続いています。

学生時代では画像や医療機器を中心に学び、撮影の実験なども数多く経験しました。特に、基盤を配線し電圧を測ったりといった手を動かす作業は、私にとって非常に楽しいものでした。今でも忘れられないのが、実験道具であるビーカーを1時間半も洗い続けた授業。水滴が真っ直ぐに落ちないのはビーカーに油汚れが付着している証拠とのことで、一見きれいに見えるビーカーをひたすら重曹で洗浄しました。当時は「今日は家に帰れないかも……」と不安な気持ちになりましたが、仕事に関わる道具をしっかりと管理する重要性が、この授業を通して身に染みて分かりました。

診療放射線技師国家試験に向けては、食事と睡眠以外の時間をすべて勉強に注ぐなど、人生で一番勉強をした期間になりました。最終的には、朝起きて着替える時間ももったいなくなって、ベッドから出ないまま勉強に没頭していたほどです。そうした努力が実り、横浜市に就職して市民病院で勤務することになったのです。

「患者さんのための撮影」であることを忘れずに

市民病院の魅力は、各部署の専門性が高く、しかも横のつながりが強いことだと思います。何かあれば必ず周囲がサポートしてくれますし、大きな組織にありがちなしがらみがなく、挑戦を応援し合うような雰囲気に助けられてきました。画像診断部については、最新の画像診断機器や高精度放射線治療装置がそろい、専門性の高い医療を提供できることが特徴。さらに、医師と放射線技師の距離が近く、密に連携をとりながら撮影を行っています。

私が技師として大切にしてきたのは、自分本位にならず「患者さんのための撮影」を実現すること。教科書的な画像を撮ろうとこだわり過ぎると、患者さんの負担に思いが至らない可能性もあります。例えば、痛みを抱える患者さんの撮影においては、画像のクオリティーは60点でも撮影時間を短くし、苦痛を軽減することが優先されるケースもあります。状況や目的、検査内容などをしっかりと理解し、臨機応変に対応することの重要性は、若手の技師にも必ず伝えていきたいと思っています。

また、資格取得にも積極的に挑戦しています。当院が電子カルテを導入した際、私たちの理解不足もあって、メーカーの担当者と意思疎通がうまくいかないことがありました。そこで取得したのが、医療情報技師の資格です。医療分野における情報処理技術のスペシャリストを目指すもので、医療システムの構築などの知識を備えることで相手との「共通言語」が獲得でき、希望をうまく伝えられるようになりました。ここで学んだ知識は現在も役立っており、今後もさらに深めていきたいと考えています。

PET-CT検査で診断精度をさらに向上

技師としての仕事の中でも、私が特に力を入れてきたのが核医学検査(ごく微量の放射線を出す薬剤を投与し、専用の装置で画像化する検査)です。その一つが、PET-CT検査。PET 装置にCTが合体したもので、両者の画像を重ね合わせることで、より明確に病変をとらえることができます。検査法について医師と一緒に学んだり、看護師に向けて勉強会を開いたりと丁寧に準備を進めることで、2008年3月、ついに市民病院への導入が実現しました。決して簡単な検査ではありませんが、診断の精度が上がる意義は大きいと確信しています。

今後の目標は、院内に加えて地域の医療機関などとも勉強会を開催し、交流の機会を増やすことです。医学は日進月歩であり、常に研鑽を重ねることが欠かせません。より良い画像撮影・診断についてはもちろん、医療情報技師の資格を生かして、PACS(画像管理システム)や電子カルテなどに関することでも、地域に貢献していきたいと考えています。

患者さんが技師と接するのは、検査を行う短時間だけであることが多いでしょう。しかし、私たちは常に患者さんのことを考え、より良い画像を撮影するために努力を重ねています。「放射線」という言葉から不安を感じたり、検査において分からないことがあったりしたら、気軽に声をかけてもらえるとうれしいです。

(2023年10月掲載)

プロフィール

戸田 博幸(とだ・ひろゆき)画像診断部技師長

神奈川県出身。1994年に市民病院に入職。趣味はオートバイで、部品を入手して自分でカスタマイズすることも。最近は、自身と同じく診療放射線技師を目指している娘さんと、ツーリングに出かけることが休日の楽しみ。

3才ごろ。祖父のバイクに乗って

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