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豊富な治療選択肢を携え、共に脳血管障害へ立ち向かう

増尾 修 (脳血管内治療科長)

市民病院で活躍するさまざまな職種のスタッフにフォーカスし、その人柄や医療にかける思いに迫る本企画。今回登場するのは、脳血管内治療科で科長を務める増尾修医師です。

脳の美しさに魅せられ、脳血管外科を極める道へ

和歌山県の田舎町に生まれ、友達と競うように山でカブトムシを捕ったり、川に入って魚をつかんだりという子ども時代を過ごしました。そんな私が医療に興味を持ったのは、中学3年生のとき。自然気胸という病気にかかって1週間ほど入院したのですが、そこで白衣姿の医師にあこがれを抱きました。ただ、勉強の方はさっぱりだったので、高校卒業後に大阪で寮生活を送りながら浪人し、ようやく医学部の門をたたくことができました。

もともと一人で物事を深く考えるというより、みんなで一緒に体を動かす方が好きなタイプだったので、内科より外科が向いている気がしていました。そして、外科の中でも何を専門にしようと悩んでいたとき、臨床実習で脳外科の手術を見学して感銘を受けました。人間の脳の美しさ、素晴らしさに惹かれて、脳血管外科医を目指したんです。

卒業後、私にとって最初の「師匠」となった医師は、まだ海のものとも山のものともつかない(と一般的に思われていた)カテーテル治療を時代に先駆けて行っていました。「いつかこれが脳血管障害治療の主流になる」と信じて取り組む「師匠」の熱意に、私も大いに影響されたのです。その後、地方の病院に派遣された際に、脳血管が閉塞している患者さんが運ばれてきたことがありました。血栓溶解剤をカテーテルから流したところ、見事に血管が開通。患者さんはみるみる回復し、無事に社会復帰していったという経験を経て、こうした方を増やしたいという一心で、脳血管内治療に取り組んできました。

フローダイバーター治療やWEB治療も積極的に展開

ボストン留学時代

医師としての歩みは平坦なものではありませんでしたが、中でも印象的だったことの一つが米国ボストンへの留学です。英語の壁にぶつかり、毎朝のカンファレンスで実験の成果を発表することも、夕方に同僚と飲みに行くこともかなりのストレスでしたが、次第に「きれいな英語なんて求められていない、伝わればいい」と割り切ることができて、そこから楽になった気がします。そんな矢先に起こったのが、9.11のテロでした。にわかには信じられない出来事であり、最初に映像を見たときは「映画に違いない」と思ったことを覚えています。テロリストが潜伏しているとされたボストンの町が異様に張りつめていく様は、忘れることができません。いろいろな意味で「非日常」であった留学経験は、今の自分を形づくる糧になっていると思います。

1997年 初めての動脈瘤クリッピング術の執刀

留学後は、和歌山県立医科大学で臨床に従事し、2017年から「フローダイバーター治療」を手掛けるようになりました。動脈瘤の血管内治療では、動脈瘤内にコイル(柔らかな細い管)を入れて破裂を予防することが一般的です。しかし、多くの場合、この方法は大きな動脈瘤には通用しません。そこで注目されているのが、フローダイバーター治療です。網目の細かいメッシュ状の金属製の筒(ステント)を動脈瘤がある血管に留置することで、血流を阻害して破裂を予防します。リアルタイムで血管の画像を見ながら患部までたどっていき最適な位置にステントを留置するもので、高い技術が求められますが、比較的早期から経験を積んで自信をつけてきました。

そして現在、新たに取り入れようとしているのが、「WEB(ウェブ)」というメッシュ状・袋状のデバイスを動脈瘤内に埋め込む治療法です。血流を止める確実性が高まる、フローダイバーター治療と比べて、抗血栓薬の服薬期間が大幅に短縮されるなどのメリットがあり、現時点で最先端の動脈瘤治療といえます。市民病院ではすでに、WEBに関して1例目の手術を終えました。このWEBに限らず、最新の治療は術者限定のものが数多く存在しますが、当院では、日本で許可された治療全てが実施可能です。ただ、最新治療だけを推進すればいいわけではなく、一人ひとりの患者さんにマッチした治療を選択することが欠かせません。患者さんと同じ目線に立ち、一緒に病気と闘う姿勢を何よりも大切にしています。

温かな雰囲気と連携力が市民病院の魅力

2018年に市民病院に入職し、脳血管内治療科の開設に携わったとき、病院スタッフが「よそ者」にも優しいことにとても救われました。なじみのある和歌山の地を離れることには不安もありましたが、医師やメディカルスタッフ、そして事務方の皆さんに非常に親切にしてもらい、ここまでやってくることができました。看護師が私の治療法を熱心に学びに来てくれたり、事務職員が建て替え前の迷路のようだった病院内を丁寧に案内してくれたりしたことが、今でも心に残っています。

また、大規模の病院でありながら横のつながりが強く、診療科ごとの垣根を超えた交流があるため、スムーズに診療を進めやすいことも特徴です。このような協力体制の中で脳血管内治療科を立ち上げられたのは、非常に幸運なことでした。現在では医師4人の体制にまで充実し、治療の選択肢も豊富になり、市内はもとより県外からも多くの患者さんが訪れています。

まだ開設6年目の脳血管内治療科ですから、どんなところかご存じない方も多いかもしれません。ご家族やお知り合い、あるいはご自身が脳血管障害を抱えていたり、気になることがありましたら、気軽にご相談ください。私たちが、責任を持って対応させていただきます。

(2023年9月掲載)

プロフィール

増尾 修(ますお・おさむ)脳血管内治療科長

和歌山県出身。和歌山県立医科大学附属病院などに勤務後、2018年に横浜市立市民病院に入職。脳血管内治療のエキスパートとして、脳血管内治療科の立ち上げに尽力する。趣味はドライブとラーメン屋巡り。最近は週1回のペースで市内の黒湯温泉を楽しむ。

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