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変わりゆく時代でも、安心・安全を提供できる看護職員を育てたい

土屋 恵美子 (副看護部長/認定看護管理者/助産師)

市民病院で活躍するさまざまな職種のスタッフにフォーカスし、その人柄や医療にかける思いに迫る本企画。今回登場するのは、土屋副看護部長です。

絶対に市民病院、絶対に産科病棟で働きたい!

私は、横浜の外れの、比較的自然豊かな地域で育ちました。木登りや虫取りなど屋外で遊ぶのが大好きな、活発な女の子だったと思います。看護師という職業を初めて意識したのは、小学生時代に父親が病気で入院したとき。当時は「こういう仕事もあるんだ」という程度の印象でしたが、数年後に母親が働きに出ようと苦労している姿を見て、手に職をつけることの重要性を肌で感じました。自身の将来を考える際に看護師という選択肢が自然と頭に浮かんだんです。

看護専門学校に入学した当初から、看護師だけでなく助産師の資格も取得するつもりでした。私自身が未熟児で産まれたことも影響していたかもしれません。また、昔からよく近所の小さい子の面倒を見ることが好きで、子どもに関わる仕事に強く魅かれたのだと思います。

看護学校時代

たくさんの座学や実習を経て、4年後に助産師として市民病院に入職しました。実は、市民病院は第一の、そして唯一の志望先でした。当時から院内保育所を備え、先輩方がママさんナースとしていきいきと働いている姿を見て、「絶対にここで働きたい!」と心に決めていました。

希望通り産科病棟に配属され、ずっと夢見ていた現場に立てたときは、本当にうれしかったです。大変なこともありましたが、仕事に打ち込む楽しさが上回っていたと思います。一方で、入職1年目に先輩から授かった「新人でもベテランでも、患者さんの前に立ったら関係ないよ。あなたはもうプロなんだから」という言葉に、仕事の厳しさを教えられました。助産師は大きな裁量を持つだけに、相応の責任が伴います。そのため、自分が納得できるまで考え抜いてから行動に移す姿勢が、今でも私のベースになっています。

「悲しい涙の出産」を経て「うれし涙の出産」で再会

お母さんと赤ちゃん、2つの命を同時に預かる助産師の仕事は、私にとって、とてもやりがいを感じられるものでした。一生のうちに数えるほどしかない「出産」という瞬間に立ち会う喜びは、ほかでは得がたいものです。一方で、お産が幸せな結末を迎えるとは限らず、無事に生まれてくることは奇跡に近いとも実感するようになりました。

今でも忘れられないのが、入職2年目に担当した、あるお母さんのこと。妊娠36週のタイミングで夜間に「お腹が痛い」と連絡があり、すぐに来院してもらい診察をしたところ、赤ちゃんの心拍数が非常に弱まっていました。出産前に胎盤がはがれてしまう「常位胎盤早期剥離」という状態で、すぐに帝王切開を手配したものの、赤ちゃんはお腹の中で亡くなってしまったのです。まだ温もりがあり、今にも産声を上げそうに見える赤ちゃんを抱いた時の気持ちは今でも忘れられません。病棟に戻り、麻酔から覚めたお母さんは、とても大事そうに赤ちゃんを抱っこしていました。お互いに言葉がないまま、抱き合い涙を流し、気持ちを分かち合いました。

悲しい結果になってしまったにもかかわらず、そのお母さんは当院に強い信頼を寄せてくれ、「また子どもを授かったらここに来ます」と言って退院していきました。そして3年後、本当に妊婦さんとして来院して、元気いっぱいの赤ちゃんを抱くことができたのです。今度は一緒に、うれし涙を流しました。この方から頂いた「あなたに出会えてよかった」という言葉は、今でも私の宝物です。こうした出会いもあり、うれしいとき、悲しいとき、つらいとき、どんなときも思いに寄り添うことの大切さを学びました。妊娠・出産は最後の一瞬まで気が抜けません。だからこそ不安を抱えるお母さんに妊娠経過中から向き合い、一緒に前へ進んでいくことを助産師として大事にしてきました。

多様化するニーズにこたえつつ、安心・安全を届ける

産科病棟での勤務を経て、患者総合サポートセンター でキャリアを積んだ後、副看護部長という重責を担うことになりました。市民病院で30年以上働いてきた中でも、コロナ対応は本当に過酷な経験でした。しかし、市民病院で働くすべての職員が、職種の壁を越えて手を取り合うことで危機を乗り越えることができ、団結力の強さを実感する機会にもなったと思います。

当院の看護部はスタッフの年齢層が幅広く、多様な人材が揃っていることが特徴の一つです。近年では社会情勢の変化などもあり、患者さんやご家族のニーズが多様化しています。だからこそ、さまざまな人生経験を積んできた看護職員が患者さんと真摯に向き合うことが大切だと考えています。

現在3人いる副看護部長の中で、私の担当は看護職員の採用や育成、キャリア支援などになります。医療が高度化・複雑化する中で働き方改革の重要性も叫ばれており、効率化を図りながら安心・安全な医療を提供することは、当院においても大きなテーマです。認定看護師や専門看護師などスペシャリストの養成も大切ですが、同時に広く看護職員の能力を底上げし、患者さんに安心・安全を届ける体制をつくることが、今の私の大きな目標です。

(2023年8月掲載)

プロフィール

土屋 恵美子(つちや・えみこ)
副看護部長/認定看護管理者/助産師

東京都出身。1990年横浜市立市民病院に入職。
休日には登山やハイキング、ダイビングを楽しむ。
お気に入りは上高地や室堂平。富士山には合計3回登頂、お鉢巡りも。

2歳ごろ。ベビーバスで遊ぶのがお気に入りだった。

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