造血幹細胞移植に向き合う人々の思いを受け止め、支え続ける
田村 由美子 (看護師/認定造血細胞移植コーディネーター)
市民病院で活躍するさまざまな職種のスタッフにフォーカスし、その人柄や医療にかける思いに迫る本企画。今回登場するのは、看護師の田村由美子さんです。
異業界からの大胆な転身、41歳で新人看護師に
「今日は何をして遊ぼうか?」が頭の中をほぼ占めているような、活発な少女時代を過ごしました。門限破りの常習犯でもあり、よく親に叱られたことを覚えています。そんな私が看護師として現場に立ったのは、41歳の時のことです。若い頃から、専門性や社会貢献度がとりわけ高い分野として、医療や法律の世界に漠然とした憧れがありました。大学卒業後、まずは一般企業を経験してみたいとスポーツウェアのメーカーに就職し、数年後にセカンドキャリアとして司法書士事務所に転職しました。
司法書士事務所では、法人設立や不動産登記などに関する事務を担い、地道な作業にコツコツと取り組むことが得意な自分には向いていた気がします。法律の知識が増えていくとお客様にアドバイスできることも多くなり、充実感がありましたね。ただ、この仕事を一生続けるべきかと自問自答した時に、もう一つ「やりたいこと」があったと思い出して……。11年間勤めた事務所を辞めて、思い切って看護師の専門学校を受験することにしたのです。
親友には無謀だと言われましたが、個人的には、看護業界は幅広い年齢層を受け入れてくれるという印象もありました。もちろん、患者さんの近くに寄り添い、直接関われる職種であることにも、大きな魅力を感じていました。若い方に交じっての学びは大変で、特に実習で朝早くから体を動かすことはきつかったですが、何とか看護師資格の取得にこぎ着けました。そして、新人看護師として、ここ市民病院に入職したのです。

造血幹細胞移植を支えるプロフェッショナル「HCTC」
市民病院では血液内科に配属され、今年で14年目になります。他の病院や領域については経験がないので、狭く深くキャリアを積んできたようなイメージでしょうか。振り返ってみると、看護学生時代よりも、現場に立ってからの勉強の方が、もっと大変だと感じます。医療は日々高度化し、エビデンスが更新され、新薬も次々と登場します。また、患者さんやご家族への倫理的な配慮については正解がなく、考えるべきことはいくらでもあります。「自分がもう一人欲しい!」と思う毎日です。
当院の血液内科ではさまざまな血液疾患を扱いますが、それらの治療法の一つが造血幹細胞移植です。患者さん自身、あるいはドナーから提供された造血細胞を点滴で注入し、骨髄に根付くことを目指しますが、リスクが伴う医療行為でもあります。私は移植看護の経験を生かして専門性を高めようと、2024年に造血細胞移植コーディネーター(HCTC)※の認定を受けました。現在では、血液内科病棟での看護業務、造血幹細胞移植を受ける患者さんを対象とした長期フォローアップ専門外来の担当、そしてHCTCとしての活動、3つの業務を担っています。
※造血幹細胞移植が必要な患者さん、ドナー候補者、それぞれのご家族の意思決定支援から移植に至るまでをサポートし、造血細胞移植の安全性や倫理性を確保した上で、安心して移植医療が受けられるよう中立的な立場で介入・調整を行う専門職。全国でも200名余りしか存在しない難関資格で、市民病院では唯一の有資格者となる。
HCTCは、患者さん、ドナーの方、医療者にとっての「橋渡し役」のような存在で、適切な時期に適切な移植ができるよう調整を行います。特にドナーからの移植の場合、経過予測が難しい部分も多く、治療の過程で厳しい状態になるケースもあるのが現実です。ある患者さんからの「こんなこと、やらなければよかった」という言葉は、胸に突き刺さりましたね。また、患者さんの血縁者がドナーになり得る場合、断るという選択肢がないと捉える方も多く、自由意思による選択を担保することに困難を覚えることも……。非常に難しい、重大な決断を伴う治療だからこそ、当事者の皆さんが「あの時の自分にはベストだった」と思えるような支援に努めています。
闘病生活が長いからこそ「ムラのない支援」が大切
血液疾患治療の特徴の一つが、繰り返し、長期的に行われることです。造血幹細胞移植の場合はなおさらで、移植入院期間が最低3カ月間あり、退院後も免疫が低下した状態での生活に注意しながら、数十年単位で経過観察を行わなければなりません。そこで大切なのが、スタッフや治療時期によってムラがなく、良質なレベルの支援が継続的に提供されること。「担当者が変わったからサポートの質が落ちた」といったことがないよう、院内の多職種で連携・情報共有しながら、しっかりと体制を整えることを意識しています。

それに加えて、患者さんの個別性や価値観を尊重することが、やはり欠かせないと思います。考え方や感じ方というのは千差万別で、例えば移植の意思決定の際にも、「自分は嫌だけど家族が望むなら頑張る」「親族に負担をかけるくらいならやりたくない」「怖いから判断を先延ばしにしたい」といったように、患者さんの反応はさまざまです。どんな思いも受け止めつつ、より適切な判断ができ、よりよい生活が送れるよう真摯に関わることが、一番大切なのだと思います。
これは私が現場で実感していることなのですが、当院のスタッフには、患者さんやご家族の目線に立ち、共に考え、支えようとする人が多い気がします。また、スタッフの育成にも力が入っていて、だからこそ私も、3カ月もの勤務調整をしてもらってHCTCの資格を取得できました。一人ひとりが専門性や強みを生かし、多職種・部門で連携しながら患者さんやご家族の不安に寄り添っているので、何かあればお気軽に声をかけてくださいね。
プロフィール
田村 由美子(たむら・ゆみこ)看護師/認定造血細胞移植コーディネーター(HCTC)
民間企業での勤務を経て、サードキャリアで看護師となる。看護専門学校を卒業後市民病院に入職し、血液内科病棟に配属。2024年に造血細胞移植コーディネーター(HCTC)の認定を受けた。食べることが大好きで、よくパン屋巡りをしている。インターネットを通してスイーツの「お取り寄せ」を楽しむこともしばしば。

お取り寄せしたイチジクの生菓子。
おいしい物が日々の癒しです。
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