研修医日記
RESIDENT DIARY
放射線治療や放射線治療医の仕事についてよくご存知ない方も多くいらっしゃると思います。放射線治療は、手術や化学療法とともにがん治療の一翼を担っています。すなわち、放射線治療医はがん治療医であります。実際に放射線治療の英語表記はRadiation Oncologyであり、放射線治療医はRadiation Oncologistと言います。
放射線治療はCT、MRIなどの画像診断、核医学、血管内治療(IVR)とともに放射線科の一部門として発展してきましたが、現在ではこれらのうち放射線治療(および一部の施設では核医学治療)を放射線治療専門医が、残りを放射線診断専門医が担うようになっており、診療科として放射線治療科と放射線診断科が分かれている施設や教室も増えてきました。
当院でも、すでに15年ほど前から放射線診断科と放射線治療科で標榜科が分かれており、それぞれが独立して仕事に当たっています。
放射線治療は局所治療であり主に手術の代替治療としての位置づけとなりますが、特に21世紀に入ってからの放射線治療の発展は目覚ましく、放射線治療単独、または化学療法を組み合わせることで手術と全く遜色のない成績が得られている疾患も多くあり、ニーズは年々増しています。
日本放射線腫瘍学会の統計によりますと、2019年の放射線治療件数は2015年と比べ49%増加しており1)、当院でも放射線治療人数は2013年には280人であったものが、2018年には501人、そして2023年は730人と全国統計を上回るペースで増加し、今や近隣の一般病院の中でトップクラス、大学病院と比べても引けを取らない症例数となっています。
放射線治療の発展は、放射線治療装置や放射線治療計画装置の進化により、ターゲット(腫瘍)への線量集中性が高まったことで、正常臓器への有害事象を下げつつ、腫瘍への線量増加が可能となったことによります。X線の強度を変えることで線量集中性を高める強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)や一度に大線量を照射することで局所制御率の向上を図る定位放射線治療が、現在のX線治療の最高峰であり、高精度放射線治療と呼ばれています。
一方で、線量集中性が高まると、定めた位置に正確に照射する技術がこれまで以上に問われます。放射線治療装置に内蔵されているCone-beam CTで臓器や腫瘍そのものを、またはX線透視画像で骨や体内に埋め込まれているマーカーの位置を確認し、あらかじめ定めた中心に寝台を自動で移動させています。この技術を画像誘導放射線治療 (Image-Guided Radiation Therapy: IGRT) と呼び、IMRTや定位放射線治療を行う際はIGRTで照合することが必須となっています。
さらに、肺や肝臓など呼吸で動く臓器については、従来は腹部圧迫などで呼吸を抑制しつつ、動く範囲を全て照射していましたが、現在では呼吸による腫瘍の動きを把握し、それに合わせて照射する呼吸停止法や待ち伏せ法、追尾法など呼吸性移動対策の技術も発達してきています。
今後は、治療直前のCone-beam CTを用いて、あらかじめ作成していた治療計画を体形変化や腫瘍の大きさの変化、臓器の位置変化に合わせてその場で調整し照射するAdaptive radiotherapyが普及していくことが期待されています。
現在、当院には2台の放射線治療装置と8台の治療計画装置があります。2台の放射線治療装置のうち1台はHalcyonというIMRT専用機であり(図2)、もう1台はTrueBeam STxという装置です(図3)。TrueBeam STxにより旧装置では行えなかった脳の定位放射線治療が行えるようになり、他院へ紹介しなくて済むようになりました。また、TrueBeam STxには呼吸性移動対策や6軸補正(位置合わせの際、上下/前後/左右の他、Roll/Yaw/Pitchのねじれ補正もする)も搭載されています。
放射線治療は医師だけでなく、放射線技師、医学物理士、看護師、医療事務などの協力なくしては成り立ちません。チーム医療が叫ばれて久しいですが、放射線治療はその先駆けとも言えるでしょう(それぞれの業務内容は表1を参照)。各職種が患者さんとそれぞれの立場で接するので、連携が非常に重要となります。また、放射線治療は1回で終了するものもありますが、多くは複数回、最大35回程度あり、それを平日毎日行います。すなわち、同じ患者さんと毎日接します。日々の変化をスタッフ全体で共有し対応していくことが重要です。そのため、当科はオープンスペースとし、各職種がどこで何をしているかすぐわかるようにしています。また、毎日8時30分から上記全スタッフが一堂に会し、その日に治療が開始される症例、治療中の注意すべき症例についてミーティングを行っています(図4)。
さらに、放射線治療は全てのがん種を扱いますので、様々な科との連携があります。現在、肺癌などの呼吸器疾患に対し呼吸器内科および呼吸器外科と、乳癌に対し乳腺外科と、前立腺癌、膀胱癌などの泌尿器腫瘍に対し泌尿器科と定期カンファランスを行っています(乳癌、泌尿器腫瘍ではコメディカルも参加しています)。
このように放射線治療の需要は年々高まっていますが、全国的に放射線治療医が少ないのが現状です。令和4年時点で、放射線治療専門医は1353人であり、放射線診断専門医の6106人と比べ圧倒的に少なく、がん薬物療法専門医の1604人、呼吸器外科専門医の1626人、感染症専門医の1631人、乳腺専門医の1838人よりもやや少ない人数となっています2)。いくら立派な装置があっても、医師を含めたスタッフが十分いないと高精度放射線治療は行えません。放射線治療医は臓器横断的に老若男女に渡り、全てのがんを診ることができ(実は一部の良性疾患も扱います)、がんの早期から末期まで、根治目的から緩和目的まで様々な場面で活躍できます。この文章を見て、少しでも放射線治療に興味を持った方がいたら、是非放射線治療科を研修してくれれば幸いです。
1) Ohba et.al. J Radiat Res 2023;64:904
2) 日本専門医制度概報【令和4年(2022年)度版】
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