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研修医日記

RESIDENT DIARY

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サードアイ

 皆さんこんにちは。臨床研修委員長の仲里朝周です。本日は臨床研修に全く関係ありませんが、我が家の自慢の家族を紹介させて頂きます。イグアナの「イグオ君(仮称)」です。名前はまだありません。オスのブルーイグアナで推定年齢2歳です。中米のニカラグア出身です。我が家に来てから2年になります。来た時は体長20cm程の子供でしたが、すくすくと成長して現在は1m近くになっています。イグアナと言えばグリーンイグアナが定番ですが、イグオ君はブルーイグアナという少し青っぽいとてもきれいな色をしています。医学生の皆さんの中にも子供の頃、恐竜への憧れを抱いていた方もいらっしゃるのではないかと思います。見た目はまさに小さな恐竜で、子供時代の夢が叶ったような感じで一人フフッとほくそ笑み(キモい)、時々見とれてしまいます。しかしこのような感傷的な気分に浸っているのは私1名のみで、他の家族には存在が認知されておらず、お通じのバッドスメルで嗅覚に訴えるしか自らの存在をアピールする術がない状態です。イグアナは見た目はイカツイのですがなんと草食動物なんです。好物はレタスや小松菜なので食事に関しては育てるのがとても楽です。ただ成長には紫外線とカルシウム、ビタミンDが必要なのと(不足すると一丁前にくる病になります)寒さに弱いので冬場はヒーターが常時必要となり少々電力代がかかります。あとはどんどん大きくなるので大きなケージが必要となります。現在は猫用の大きなケージで暮らしておりとても快適そうに過ごしています。

 なぜイグアナの話を突然し出したのかと申しますと、最近イグオ君の頭頂部正中に何やら半透明の小組織があることに気付いたのです。色々と調べてみると、一部のトカゲでは頭頂部正中に小型の透明な嚢状構造の円形組織が存在するようです。これは頭頂眼(Pariental eye)と呼ばれ、絶滅した多くの両生類や爬虫類に頭頂眼が発達した種類が多かったと言われています。解剖学的には水晶体、硝子体、網膜ならびに視細胞、視神経から構成され、「第3の眼」とも呼ばれる光の感受器で、物を見ることはできませんが色や明るさだけであれば眼としての機能があります。明暗などによる位置や方向感覚にも役立っています。頭頂眼と視床上部は神経でつながり、光刺激がメラトニンを分泌して性ホルモン産生を行います。太陽光の熱量を測って体温を一定に保つ(体温調整)、特に昼行性種類によく発達しているのでビタミンD産生などにも関与しているとも言われています。

 この第3の眼の話が研修医採用試験や面接、国試に果たして役に立つのか?というと、申し訳ございません、全く役に立ちません。このままではなんのオチもない小話に終わってしまうので、私が研修医時代に経験した、思わず第3の眼が開いてしまいそうな恐ろしい出来事をお話したいと思います。

 

 私が研修医になってまだ2ヶ月しか経っていない時期にその出来事は起こりました。当時、大学病院の研修医の給料は月2.5万円という恐ろしく低い賃金でとてもそれだけでは生活ができず、当直のアルバイトをするのが当たり前の事でした。といいますか、当直に行きたくもないのに研修医のdutyとして上級医の先生から当直バイトが研修医へ割りふられていました。私は恐ろしいことに研修医の2年目には一時期週5回も外の病院の当直を担当して(やらされて)いました。当然当直明けの休みもなく翌朝は大学病院に戻り眠ることなく普通に日勤もしていました。今考えると月200時間以上超過勤務をしていたと思います。さて研修医1年目の6月にある先輩から「今日〇〇病院の当直をお願いできないかな。急用ができちゃってさ。ほぼ寝当直だから1年生でも全然大丈夫。困ったらいつでも連絡していいからさ。」と頼まれました。私はまだ研修医になりたてだったのでまだ当直に行ったことがなくとても不安でしたが、当時先輩の命令は絶対でしたので渋々当直に行くこととしました。都内の総合病院の内科当直として若造1人で一晩を乗り越えなければなりません。初めての当直なのでガチガチに緊張して「救急マニュアル」を何冊も持って臨みました。右も左も分からず病院の当直室を案内され、ほっと一息をついたとたん救急外来からいきなり電話がかかってきました。「寝当直って言ってたじゃん」私はチッと舌打ちして先輩を恨みました。救急外来に行ってみるとおばあさんが1人ベッドで横になっていました。「すみません。普段から頭痛持ちなんだけど今日は頭痛薬飲んでも痛みが全然おさまらなくて。」とお話をされました。頭は痛そうですが意識ははっきりしています。ただ収縮期血圧が200もありました。私は心配になり先輩に電話しました。「意識ははっきりしてるんでしょ。だったら高血圧によるものだから降圧薬処方して明日神経内科に受診してもらえばいいじゃん」と軽く言われました。私はマニュアル通りひとまず降圧剤を処方しました。血圧は落ち着いたのですが頭痛はおさまらず「先生、痛い、痛い。何とかして」「なんか違う。変、変」「気持ち悪い」とおっしゃり突然嘔吐をされました。「これはおかしい」と経験の浅い私でも直感的に危機を察知しました。第3の眼が働いたのかもしれません。研修医1年目の直感なんてあてにならないかもしれませんが、脳のCTを絶対撮らなければと確信しました。しかし当時は夜間にCTを撮るなんてものすごくハードルが高く、放射線技師の方を夜間呼び出してわざわざ来院してもらわなければなりませんでした。研修医1年目に呼び出されるなんてとても申し訳なく思いましたが、患者さんのためなので勇気を出して電話しました。すると放射線技師さんは快く来て下さりました。

 「くも膜下出血」でした。教科書でみるあのペンタゴンです。勿論、本物は初めて見ました。私は背筋がゾクッとしました。貞子がテレビから出てきたのと同じぐらいの恐怖を覚えました。すぐに先輩に電話しました。近隣の△△大学病院にすぐ搬送するよう指示されました。患者搬送のために救急車に同乗するのも初めての経験でした。しかもおばあさんの意識レベルが徐々に低下し、呼吸が弱まってきました。「大丈夫ですか!」呼びかけに反応ありません。痛み刺激にも反応がありません。対光反射も鈍いです。とうとう虫の息となりましたが私は気管内挿管の経験がありません。とにかく気道を確保しアンビューバックで必死に換気を続けました。死に物狂いというのはまさにこのことだと思いました。△△大学病院までの道のりは異常に長く感じられました。とにかく心臓だけは持ってくれ、と神に頼みました。駅伝でたすきを倒れ込みながらもぎりぎり手渡した、まさにそんな感じでした。間一髪セーフでした。△△大学病院救急外来に到着すると沢山の救急の先生方が一瞬にして集まり、すぐ気管内挿管、人工呼吸器装着をして下さり大事な患者さんの一命を取り留めることができました。20年以上も前の事ですが、△△病院の先生方、この場を借りて感謝申し上げます。

 「くも膜下出血」と言えば、教科書には「バッドで殴られたような激しい頭痛」と記載されていますが、最初から激しい頭痛とは限らないということを身をもって学びました。

 今ふりかえると昔の研修医は本当に過酷な労働条件で働いていたと思います。また、こんなぺーぺーの研修医に診察をされていた患者さん方は本当に可哀想でした。でもそれが昔の当たり前の医療だったのです。今や研修医は守られており、給与も十分もらえて安全な環境で学べて本当に恵まれていると思います。研修医の先生方は日々の臨床研修が当たり前と思わず、常に感謝の気持ちを忘れないように心がけて下さい。

 研修医は基本的な知識や手技を学ぶことは勿論重要ですが、直感力を信じることも時には必要だと思います。第3の眼なんてEBMとはかけ離れた感じですが、皆さんにも第3の眼が必要となる日がいずれは必ず訪れると思います。

 イグオ君、恵まれた環境でのんびりと過ごしており、サードアイはもはや閉じているようです。なでてあげると第1の眼、第2の眼も閉じて寝てしまいます。イグオ君の幸せを祈念してこの日記を終わりにしたいと思います。

 

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